CHAPTER 3

STORY OF THE FUTURE

未来のIoTストーリー

203X年68歳 既婚男性の1日

朝起きて家を出るまで

A
M
0
3
:
0
0

目が覚めて時刻を確認する。視界の隅にデジタル時計が表示される。午前3時かそろそろ起きるとしよう。 わたしの朝は早い。ひと昔であれば隠居する年齢だが年金がもらえるようになるまで、もうしばらく現役でがんばらなくてはいけない。わたしの外見はほぼ50代後半のままで止まっている。「ナノマシン」と呼ばれるごく微小なロボットが体中をかけめぐり悪い部分を治療再生してくれるおかげだ。

先日、レンズをやめて思い切って頭の中にBMIインプラントを入れた。血管を通して脳に複数のプローブを挿入する最新のウェアラブルデバイスだ。埋め込まれたデバイスは脳とコンピュータのインターフェースを行う。例えば視覚は、LGNに作用しコンピュータの情報をオーバーレイ表示する仕組みになっている。メガネ無しの拡張現実(AR)といったところだ。人間の五感には限界があるが、このデバイスを使うことによりそれを超えることができる。例えばネットに接続した時、自分が回線に入り込み世界中をかけめぐる感覚が味わえる。とうの昔に死語になったネットサーフィンそのものなのだ。

先日、レンズをやめて思い切って頭の中にBMIインプラントを入れた。血管を通して脳に複数のプローブを挿入する最新のウェアラブルデバイスだ。埋め込まれたデバイスは脳とコンピュータのインターフェースを行う。例えば視覚は、LGNに作用しコンピュータの情報をオーバーレイ表示する仕組みになっている。メガネ無しの拡張現実(AR)といったところだ。人間の五感には限界があるが、このデバイスを使うことによりそれを超えることができる。例えばネットに接続した時、自分が回線に入り込み世界中をかけめぐる感覚が味わえる。とうの昔に死語になったネットサーフィンそのものなのだ。

A
M
0
3
:
3
0

いつもの日課で自作パソコンの電源を入れる。今では一部のマニアしか使っていない骨董品だ。 故障した時、パーツの入手が難しくジャンクショップをあさるしかない。パソコンの用途は恐竜を捕まえるレトロゲームをプレイするためだ。仲間にした恐竜に餌をやるのが毎日のルーティーンになっている。プレイ時間は、もうかれこれ7000時間は超えているだろうか。

A
M
0
5
:
0
0

朝食を取るため一階のリビングへ移動する。妻は5時には起きている。朝食はいつもトーストと紅茶。 家電はすべてOSが管理していて、このトーストも生地から作り、起きる頃に焼きあがっている。味も絶品だ。 少しOS(Operating System)の話をすると、今の時代のほとんどの住宅にはHomeOSが搭載されている。その原型はHEMS(Home Energy Management System)からきており、セキュリティや家電の制御、保全、使用者の行動予測まで行ってくれる。あとから追加した家電はいくつかの呪文を唱えるだけで簡単に接続できるようになっている。外壁や屋根もOSが管理していて災害時のダメージや劣化状況をIoTを通じて診断できるようになっている。ボイスインターフェースはAIコンシェルジュのAbigailが担当してくれている。そういえばAIコンシェルジュには、なぜ女性が多いのだろう。昔から家電の音声には女性の声が採用されていた。今しがたネットで調べたら、サポートしてもらう場合は人間行動学的に女性の声の方が適しているとのことだ。

A
M
0
5
:
0
0

朝食を取るため一階のリビングへ移動する。妻は5時には起きている。朝食はいつもトーストと紅茶。 家電はすべてOSが管理していて、このトーストも生地から作り、起きる頃に焼きあがっている。味も絶品だ。 少しOS(Operating System)の話をすると、今の時代のほとんどの住宅にはHomeOSが搭載されている。その原型はHEMS(Home Energy Management System)からきており、セキュリティや家電の制御、保全、使用者の行動予測まで行ってくれる。あとから追加した家電はいくつかの呪文を唱えるだけで簡単に接続できるようになっている。外壁や屋根もOSが管理していて災害時のダメージや劣化状況をIoTを通じて診断できるようになっている。ボイスインターフェースはAIコンシェルジュのAbigailが担当してくれている。そういえばAIコンシェルジュには、なぜ女性が多いのだろう。昔から家電の音声には女性の声が採用されていた。今しがたネットで調べたら、サポートしてもらう場合は人間行動学的に女性の声の方が適しているとのことだ。

A
M
0
6
:
0
0

クルマで40分ほどの場所にある仕事場へ向かう。遠くに大手ゼネコンが建設中の宇宙エレベータが空に向かって黒い縦線を描いている。クルマはレベル5の自動運転なので自分でするは必要はない。それが普及したことで数年前から在来線が次々と廃線になった。自動運転車専用道路の交差点には 信号がない。時速100㎞以上でクルマが交差してもAIどうしが同期するため、ぶつかる心配がないのだ。

A
M
0
7
:
0
0

わたしの前職はメーカーの商品企画だった。先輩から引き継いだグリーンインフラ事業の繋がりもあって退職後にプランテーションで働くようになった。プランテーションといっても大地に農場があるわけではない。雑居ビルを改造した野菜畑だ。ヒートアイランド対策と収穫の両方の役目をしている。育てている野菜たちは監視、収穫まですべてコンピュータまかせになっていて、それが実現できたのはIoTという言葉が流行った時代から、農業にいち早くその技術が適応されたからだろう。

A
M
0
7
:
0
0

わたしの前職はメーカーの商品企画だった。先輩から引き継いだグリーンインフラ事業の繋がりもあって退職後にプランテーションで働くようになった。プランテーションといっても大地に農場があるわけではない。雑居ビルを改造した野菜畑だ。ヒートアイランド対策と収穫の両方の役目をしている。育てている野菜たちは監視、収穫まですべてコンピュータまかせになっていて、それが実現できたのはIoTという言葉が流行った時代から、農業にいち早くその技術が適応されたからだろう。

ほとんどの野菜や果物は収穫後、粉末状に加工され出荷される。従来の方法だと新鮮さが保てず食卓に並ぶ前に大半が廃棄されていた。そのロスを最大限なくす画期的な方法なのだ。粉末状の野菜は3Dプリンターのインクとして使用され必要なときに元の野菜に復元される。ちなみに食肉に関していうと、ほぼ培養肉に変わった。世界的な人口増加で回復不能レベルのプロテイン不足に陥ったためだ。昆虫を使った商品も少なからず市場に出回っていたが、肥えた人間の舌を満足させられなかった。DNAの改変が進み従来より低コストで、さらに美味いしい肉を大量に培養できるようになった。だが、もとの動物がいったい何だったのか消費者は誰も知らない。

昼休み

A
M
1
2
:
0
0

昼食を軽く済ませ事務所の椅子を倒して横になる。本当に寝てるわけじゃなくネット動画を愉しむためだ、目を瞑っていても映像が飛び込んでくる。まるで夢を見ている感覚だ。 視野の隅に妻からのメッセージの受信マークがついた。ハウスメーカから家のOSバージョンアップをいつ行うか聞かれているという内容だ。いつものアップデートだと何の支障もないのだが、メジャーアップデートはそうはいかないらしい。古い家電や家具が接続できなくなるかもしれないため、立ち合いが必要とのことだ。今晩から娘と孫が泊まりにくるので来週の日曜日にしてもらうことにした。

P
M
0
1
:
0
0

収穫は季節に関係なく絶えずローテーションで行っているため、仕事の繁忙期と閑散期は平準化されている。世界の平均気温は、かなり高くなった。気候変動に加えてAIやブロックチェーンの普及によりコンピュータの排熱が増加したからだともいわれている。その影響で年間を通して作物を育てるのが難しくなったが、当社の設備はIotを使って常に温度、光、湿度、水分の監視をしていて、頭脳となるAIが作物の成長過程を予測し、土壌のカリウム、カルシウム、硝酸イオンなどをコントロールしている。

P
M
0
1
:
0
0

収穫は季節に関係なく絶えずローテーションで行っているため、仕事の繁忙期と閑散期は平準化されている。世界の平均気温は、かなり高くなった。気候変動に加えてAIやブロックチェーンの普及によりコンピュータの排熱が増加したからだともいわれている。その影響で年間を通して作物を育てるのが難しくなったが、当社の設備はIotを使って常に温度、光、湿度、水分の監視をしていて、頭脳となるAIが作物の成長過程を予測し、土壌のカリウム、カルシウム、硝酸イオンなどをコントロールしている。

退社後

P
M
0
4
:
0
0

定時退社して家路に向かう。クルマの中で、しばし電子書籍を目の前に開いて読書をする。窓の外を見ると 空にはドローンタクシー、地上には自動運転車が河のように流れている。都市の人口密集は、サテライトオフィスの普及でかなり改善されたが、まだ一定数の人々が通勤を強いられているようだ。 クルマは化石燃料からすべて電気に変わった。走りながら充電するため、わざわざ停止させる必要がない。隣を走る巨大なトレーラーは水素発電で走っている。走る小型発電所といったところだ。

P
M
0
5
:
0
0

帰宅すると娘と孫がすでに我が家に到着していた。孫は男の子で見ないうちにだいぶ背が高くなった。今年10歳になる。来年中学に進学するらしい。横並び教育は廃止され日本でも最短で16歳で大学を卒業できるようになった。少子化の影響もあるが学校は昔のように大勢で学ぶ形式ではなくなり、より専門知識を学ぶため少数制に変わった。DNAの分析からその子の特性にあった学習内容と学習スピードを選択することになる。わたしは学生時代、システムエンジニアを目指していた。祖父に似たのかわからないが孫はAIエンジニアの道に進むという。

P
M
0
5
:
0
0

帰宅すると娘と孫がすでに我が家に到着していた。孫は男の子で見ないうちにだいぶ背が高くなった。今年10歳になる。来年中学に進学するらしい。横並び教育は廃止され日本でも最短で16歳で大学を卒業できるようになった。少子化の影響もあるが学校は昔のように大勢で学ぶ形式ではなくなり、より専門知識を学ぶため少数制に変わった。DNAの分析からその子の特性にあった学習内容と学習スピードを選択することになる。わたしは学生時代、システムエンジニアを目指していた。祖父に似たのかわからないが孫はAIエンジニアの道に進むという。

P
M
0
8
:
0
0

夕食を済ませて皆としゃべり終わると、そろそろ眠くなる時間だ。名残惜しいが一足先に就寝させてもらうことにした。寝ころんでメディカルチェックを行う。脳の神経ネットワークログとナノマシンの情報は絶えずクラウドサーバーにアップされていて、就寝前に問題箇所を分析してくれる。血管が少し硬くなっているようだが今のところ支障はないようだ。サーバーに蓄積された生体データは色々なところで活用される。現代はその情報がお金より価値がある。AIが学習するための教科書になるからだ。例えば家の価値はセットアップされたデータの質と量で決まる。20歳代女性用の住宅は、数万人の20歳代の女性の趣向や行動、使い方をAIがすでに学習済の物件なのだ。わたしのデータは、我が家のHOME OSに直接フィードバックされている。 最近、考え方や口癖がわたしに似てきているのは、そのせいだろう。わたしが亡きあとも、わたしの分身がOSの中に生き続け家族を見守ることになる。